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アパートまで戻る道も、
まだまだ残光が十分明るく満ちた薄暮の中という道行きだったので。
顔見知りの方々とすれ違っては、
会釈をしたり“暑いですねぇ”なんて簡単なご挨拶を交わしたりもし。
もう半月前にもなろうかというのに、
やっぱり七夕祭りの話を振られることもあるけれど。
おおむね、ゆかた姿が似合っていたと褒めていただくお声ばかりで、
盆踊りや大川の花火大会にも着てゆくのでしょう?と、
今から楽しみにされてしまったり。
「花火大会かぁ。」
大川の花火大会は盆踊りの次の週。
他の有名どころのが本格的に始まったからでもあろうが、
もうそんな話題が出てるんだねとか、
その前に、町内会で今年も海に行く計画があるらしいよ?
わあ、勿論出掛けるよね?なんて、
この夏の計画を わくわくと語らい合いつつ。
ブッダ様謹製の ナスの揚げびたしと、
ふわとろオムレツで焼きそばをくるんだオムそば、
枝豆とプチトマトにキュウリを和え、
そこへレタスを千切り入れた
マスタード風味のマヨサラダをうまうまと堪能しての、さて。
「ブッダ?」
食器を片付けた後も、
流しの前に立ったままでいる伴侶様なのへ。
なかなか傍へ来てくれないと業を煮やしたか、
昼間とうとう使い始めた 冷風扇の温度設定のスイッチなぞ
手持ち無沙汰のままにいじっていたものが、
そんな卓袱台前からわざわざ立って来たイエスだったが、
「何なに? 何しているの?」
「うん、布巾や菜箸の除菌漂白だよ。」
夏場は特に小まめにしないとねと、
プラスチックの洗い桶の中へ浸した
下ろしたてみたいに真っ白い布巾を見下ろしておいでで。
ブッダからの説明へ、
ふ〜ん、と
納得したのか感心したのか、
どっちとも解釈出来そうな声を出しつつ。
狭いキッチンスペースだからというのもあってのこと、
すぐ間近まで寄ってったそのまま、
愛おしくてたまらない、
まろやかな稜線を描くブッダの肩に見とれること しばし。
くるん、と
ほぼ無自覚のまま、その肩を両方とも、
自分の腕を巻きつけるようにして抱いていたイエスであり。
“…う〜ん。”
プリントこそ違うが、素材は同じ、
つまりはお揃いのTシャツを着ているお互いで。
なのに どうしてかなぁ、
洗濯の頻度だってそんなに差はないはずなのに、
ブッダの着ているのは、ずんと柔らかで甘い香りがするようだと思う。
柔軟剤の効果云々以上の感触で、
ふわっふわの綿から織り出したばかりですというような。
厚みのあるやさしい温かさというか柔らかさというか、
そういう感触が触れたところ全部から伝わって来て、
“気持ちいい…vv”
ああ、これってきっと、
シャツの素材のせいじゃないのなと気がついたのは。
不意に抱きつかれてさすがに驚いたものか、
困惑気味になったらしいブッダの身じろぎが
密着させた腕や胸板へ そのまま伝わって来たから。
シャツ越しに動いた感触の、
ふわりとしたしなやかさや柔らかさが、
それは格別な感触だっただけ。
シャツが、ではなくて
ブッダ本人の感触が ふわふわふかふかで、
それが飛びきり気持ちがいいんだと あらためて納得し。
胸元に抱え込んだ背中やら
腕を巻き付けている肩やらへ頬擦りしつつ馴染んでおれば、
「…いえす。////////」
またぞろ もじょりと背中がうねり、
ブッダの小さな声が聞こえて。
なぁに?
えっとぉ…。////////
此処は二人のおウチなのだから、
当然 誰ぞかの人目もないのだし。
そんな中での このくらいのスキンシップは
それこそ告白前からも日常茶飯なそれだったから、
イエスの側にはちいとも
あらたまっての何かという感慨はなかったけれど。
そしてそれが当然だというのは、
ブッダにも重々 判ってはいるのだけれど。
「えっと…。///////」
それが判っておればこそ、
自分でも おかしいなとか妙だなと思う。
妙なんだけど、でも、あのね?
何でなんだろか、前とは何かが微妙に違くて。
そう。なんでこんなにも
“ドキドキしちゃうんだろお。///////”
以前からも、イエスから甘えかかられてのこと、
こういう態勢になることは多々あった。
スキンシップなんて習慣は、握手という格好でさえ ほぼなくて。
感極まって抱き着くこととかはないでもないが、
それにしたって、
それこそ悟りを開いて感情さえ制御している自分には
久しく覚えがなかったこと。
なので、イエスから懐かれ、触れられる機会が増えたのへも
最初は抵抗がなくもなかったが。
当時は“弟のような”という対象だったこともあり、
甘えられているのだという把握から、
すぐにも意識するほどのことではなくなり。
あどけない子から懐かれているのだと、
いい子いい子という感覚で接していての、
他愛ないこと、平気なこと、だったのだけれども。
“…そっかぁ。////////”
ブッダへは特別な“好き”を抱えていたのだと、
大事にしたい、優しさでくるみ込みたいという
“恋情”を持ってたと告白されてしまってからこっち、
触れられるだけでも飛び上がってた頃があり。
あれはあれで傷ついただろうに、
何の何のと果敢にも“ビックリさせてごめんね”と言いつつ、
やっぱり触れて来てくれてたイエスだったのが、
どんどんとこちらからも愛おしくなって。
ただ、その温みや
触れてくれる強い肌、頼もしい筋骨の感触は。
以前の“かわいいなぁvv”ではなく、
雄々しくてワイルドでドキドキする、
胸がきゅうんと振り絞られて落ち着けないという、
ときめきの要素になってしまっているがため。
“うあ、どうしよう。///////”
ドキドキするけど イヤなんじゃない。
でもでも、落ち着けないから 挙動不審なのが恥ずかしい。
あ、うなじに頬っぺくっつけてる。///////
ああう、お髭がくすぐったいし、甘い重みが何とも言えない。
胸元に見下ろせてる 大きな作りの手も大好きで、
別に“逃がさないぞ”と鷲掴みにされてるんじゃないのに、
いやむしろ そんな風にガチで掴まれたら、
此処の筋が浮き上がって、もっと雄々しい見栄えになるんだろうな。
荒々しくされるのが好きなんて事は勿論ないし、
そもそも 彼からそんなされた覚えなんての自体がないのだけれど。
そういういけない想像しちゃうよな、
荒削りな作りというか、男臭い骨格や肉づきの、
面差しとか手とか腕とか喉元とか、
肩とか胸とか背中とかしている彼なものだから。
“……ううう。/////////”
何だろこれ、
何でそんな風に 唐突にも程があること思うのかな。
もしかして、早く目覚めてほしい気持ちの現れとかかなぁ。
だとしたら、私って存外 我慢が利かない身だったのかな。
修行が足りない部分がこういう格好で見つかるとは、
怪我の功名、もっけの幸い、
この際だから忍耐についての修養を重ねることに 。
“………………………あれ?////////”
ちょっと待て、そういうことか? これ。
第一、修養って何するのサ。
もっともっと我慢を重ねるの?
我慢て…えっとぉ。/////////
頬や耳朶から降りて来て、おとがいの縁をたどる唇の感触とか。
それがするりとすべり込み、
顎のうらの 一際やわらかいところとか、
イエスのようにごつりとした陰影も浮かばぬ
すべらかな肌した喉元とかを、
時折 やわく吸われつつ喰まれる感触とか。
二の腕や肩口に頬や鼻先でこしこしと甘く擦り寄られ、
そんな甘やかな温みへ、愛しくてならぬとうっとり陶酔しておれば、
鎖骨の合わさりを通過した先、
みぞおちまでの胸板の肌を、
舌先の熱に悪戯されつつ、
時に甘咬みされる歯の先の感触も感じつつ、
そんなに欲しい?
そうまで美味しいの?などと
そんな淫らなことを火照った頭でグルグルと想い、
総身がどんどんと熱を帯びてゆくのを、
体の芯が鼓動の高鳴りに追い上げられて
きゅうと絞めつけられてゆくのを、
甘く切ない痛みと共に、
いつの間にか…声を出さぬよう歯を食いしばって耐えてるあの感覚を、
“……我慢するのが修養なのかなぁ。////////”
何だかなぁな堂々巡りをしてないで、
ちょおっと落ち着いてくださいな、釈迦牟尼様。(笑)
頬や福耳がどんどんと赤くなるブッダなのへ、
“???”
どうしたのかな、
ああでも アンズの匂いがするから嫌なんじゃあないみたい。
ギュッて力を込めたら頼もしいのに、
そうでないときのブッダって、
どこもここも 和菓子のぎゅうひみたいにふかふかのやわやわで。
そんなのままで甘えてくれると、可愛くて可愛くて
ついつい調子に乗って、
やわらかいところやすべすべのトコとか、
全部をキスして確かめたくなるからいけないなぁ。////////
だって、それほどにブッダって綺麗で魅力的なんだもの。
お風呂上がりなんて、
真っ白い肌がほんのり桜色になって凄い色っぽくて
私 脱衣場ではいつも気が気じゃないんだから。
相変わらず ややこしいトランクスはいてるから、
疚しい何かを感じても、すぐに萎えられてるかもだけれども
……などなどと、
イエス様の側だとて、
落ち着けない何かをついつい思ってしまう、
ざわめきの夏がやって来たようでございます。
〜Fine〜 14.07.26.〜07.27.
*何だかなぁな一篇でしたね。
妙な騒動編を挟んだので、
通常運転がよく判らず、
とりあえずの手探りを一席というところでしょうか。
(一席て・笑)
冷風扇もとうとう稼働させてるらしいです。
なので、くっつくくらいなら特に支障もなくの、
すりすりと懐いたり、
いちゃいちゃとハグし合うのが続行可能になったらしく。
逆に当たり過ぎて風邪とかひかないようにね。
……連日のこの暑さならそれはないかな?(う〜ん)
めーるふぉーむvv


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